昨年10月、米テキサス州ヒューストンで開催したカスタマーカンファレンスの壇上において、Cogniteは「ムーンショット」を発表しました。それは、2035年までに「検証・実証された顧客価値を累計1,000億ドル提供する」というコミットメントです。
これは、旧態依然としたエンタープライズソフトウェアモデルは破綻しているという根本的な問題意識に基づいた、大胆かつ野心的な挑戦でした。過去数十年間にわたり、B2Bテクノロジー業界における「成功」の基準は、販売ライセンス数、アカウント導入率、消費量、そして終わりのないPoC(概念実証)といった、ベンダー視点の指標ばかりで測られてきました。しかし私たちは、世界の基盤を創り、動かし、支える重工業・重要インフラ企業のために、目に見える事業インパクトとROIという顧客体験にこそ自らの「北極星(真の指針)」を置くべき時が来たと確信していました。
そして目標発表からわずか1年が経過した今週、Cogniteはお客様とともに極めて重要なマイルストーンに到達したことを発表いたします。Cogniteがお客様とともに創出し、検証・実証された価値が累計10億ドルを突破しました。
この大台への到達は、エンタープライズテクノロジーに全く新しいオペレーティングモデルが必要であることを証明しています。それは、単に「何を販売し、何を納品したか」でソフトウェアを評価する時代を脱し、顧客の現場で「実際にどのような成果が達成されたか」をすべての対話の軸に据えるモデルへの転換です。
ソフトウェア指標の先へ:実現価値の真の意味
エンタープライズテクノロジーの世界において、「価値」という言葉は机上の予測やプレゼンテーション資料上の試算として軽々しく扱われがちです。しかし、私たちが目指す価値はそのようなものではありません。お客様と協働で検証し、お客様自身によって公式に承認・合意された「真のビジネスインパクト」を指します。
これは、強固な信頼関係の上に成り立つ全く新しいモデルです。グローバルな産業リーダー企業に対し、現場の運用ワークフローを開放し、社内データを透明性高く共有していただくには、かつてないほどの信頼が不可欠です。お客様がこれを受け入れてくださったのは、当社を単なるライセンス販売ベンダーではなく、事業成果に責任を持つ「真のバリューパートナー」として認めてくださったからにほかなりません。
Cogniteにとって実現価値とは、Cogniteの産業AI&データプラットフォームを活用し、日々の現場業務において達成された以下のような具体的成果を意味します。
- 稼働率の向上: 複雑かつ重要な設備・資産における計画外停止を防止。
- コスト削減と効率化: エネルギー消費、保全業務プロセス、原材料利用の最適化。
- 意思決定の迅速化: コンテキスト化された現場データを即座に提供し、エンジニアや現場オペレーターの業務を高度化。
私たちの思想:本番稼働はゴールではなく、スタート地点
従来のエンタープライズソフトウェアでは、導入が完了しシステムが本番稼働を迎えた時点で、ベンダー側の仕事はほぼ終了とみなされていました。そして営業担当者が去った後、投資の妥当性を証明し、社内の定着化に向けた摩擦と戦い、ROIを算出する重責はすべて顧客企業に委ねられていました。
私たちはこのモデルを真っ向から否定します。社会基盤を支える産業界にとって、本番稼働は単なるスタート地点にすぎません。
重厚長大な産業現場は複雑で、巨額の資本を伴い、本質的にリスクを避ける傾向にあります。プラントマネージャーや現場の経営陣は、ソフトウェアを導入すること自体を目的に購入しているのではありません。彼らが投資しているのは「オペレーションの変革」です。したがって、実現価値の追跡・検証は導入後の事務作業ではなく、顧客の投資を守り、変革を確実に実らせるための「戦略的共通OS」なのです。それは、顧客企業のビジネスを実質的に改善するために、双方が互いに責任を果たし合うためのアプローチです。
Cogniteの長年の顧客である石油・天然ガス大手であるAker BPのCDO、ポーラ・ドイル(Dr. Paula Doyle)は、次のように述べています。
「Aker BPの目標は、単にデジタルツールを導入することではなく、海洋探査・生産、そして油田現場におけるオペレーションの可能性を再定義することにありました。Cogniteとの長年のパートナーシップは、『技術はエンジニアをエンパワーし、より安全で持続可能なオペレーションを実現し、確かな事業インパクトをもたらして初めて意味を持つ』という共通の信念に基づいています。当社アセットにおける日々の現場業務の変革から、『Yggdrasil』のような先進的プロジェクトのデジタル基盤構築に至るまで、私たちの取り組みの中心には常にROIがありました。今回の10億ドル突破というマイルストーンは、産業界とテクノロジーパートナーの長期的な共創が成し遂げられる成果を如実に示すものです」
手法解説:顧客とともに価値を共同検証するフレームワーク
この取り組みは、成果重視型のエンゲージメントモデルから始まります。
1. 初日からのマルチステークホルダー連携
実現価値は、単一の視点だけで検証することはできません。IT部門やプロジェクトマネージャーだけに依存すると、導入の進捗マイルストーンを追うことになり、実際の運用インパクトを見失います。そのため、当社のプロセスでは意図的に以下の5つのステークホルダー層を連携させています。
- 現場のエンドユーザー: エンジニア、保全計画担当者、フィールドオペレーター。使いやすさを定性的に実証し、日々の業務が真に迅速・安全・効率的になったかを現場視点で検証します。
- プロジェクトリーダー: システムデータを集約し、ベースラインとなるパフォーマンス指標を確立するDX推進リーダー。
- 経営層の推進者: ユースケースごとのKPIが全社的な経営戦略に直結しているかを統括するCDO、デジタル担当VP、イノベーション責任者。
- 事業・製造部門の責任者: 技術的な効率化が、実世界におけるプラント改善に結びついているかを検証するプラント長やアセットマネージャー。
- 経済的意思決定者: 投資対効果を評価し、他拠点・他プラントへの横展開を承認するCFO、CIO、エグゼクティブスポンサー。
2. 事前のベースライン設定と指標策定
本格展開に先立ち、現場のリーダー陣と「バリュー・アライメント(価値合意)セッション」を実施します。お客様の成功を確実にするための必須投資と位置づけているため、本セッションに費用は発生しません。両社協働で以下の項目を策定します。
- 導入前ベースライン: 導入前の実績値を定義するための対象期間およびデータを合意・設定。
- 先行指標と遅行指標: アラート対応率、検索時間、削減された業務ステップなどの「即時的な現場シグナル(先行指標)」と、稼働時間削減、ダウンタイム回避、エネルギー消費削減などの「財務的リターン(遅行指標)」の双方を追跡。
- 透明性と協調性: 透明かつ協力的なアプローチにより相互理解を深め、最終的なROI数値に対する強固な信頼を醸成。
3. 構造化されたガバナンスと検証サイクル
価値の創出・実感は、年に一度の振り返りだけで実現するものではありません。継続的な運用リズムが必要です。
- 隔週の利用状況・効率性チェック: 現場チームへのソリューション定着度を確認し、運用KPIを把握・測定。
- 月次の運用レビュー: 測定された改善効果を検証し、顕在化した課題の解決に協働で対応。
- 四半期ごとのビジネスインパクトレビュー: エグゼクティブスポンサーを交えたデータ駆動型の公式セッション。現場の成果を検証済みROIへと変換。ハードセービング(直接的なコスト削減やダウンタイム回避)とソフトセービング(削減された工数によるエンジニアの余力創出)の両面を評価。
- 年次のROI監査: 複数施設にまたがる累積ビジネス価値を監査し、追加アセットや他事業部門への展開根拠を明確化。
4. 徹底した信頼と相互説明責任
価値を追跡するためには、顧客企業が機密性の高い操業データ、設備ログ、業務指標を開示する必要があります。このような透明性は、ベンダーが従来の「売り切り型」の営業姿勢を捨て、真のバリューパートナーとして振る舞うことで初めて可能になります。Cogniteのチームは、高度なソフトウェア専門知識と深い産業知見(元プラントエンジニア、業界専門家、現場オペレーションリーダー等)を兼ね備えており、強い探究心と成果に対する共同の責任感を持ってすべての現場に対峙しています。
Cognite社内全体への浸透
従来のソフトウェア提供から「価値実現モデル」へのシフトは、Cognite自身の社内オペレーションの再設計を意味しました。ゼロから10億ドルを達成するため、このマインドセットは全社各部門に組み込まれました。
- 製品・エンジニアリング: 新機能やAI機能の開発優先順位は、競合との機能比較ではなく、「測定可能な顧客ROIを直接引き出すポテンシャル」に基づいて決定。
- カスタマーバリュー: 価値追跡および財務検証のフレームワークを、プロジェクト初日から顧客対応計画へ直接統合。
- セールス&ストラテジー: アカウント数やライセンス販売ではなく「事業インパクト」を軸に対話を進め、初期段階から成果への共同責任を確立。
B2Bテックの未来:ヒューストンから2035年に向けて
ヒューストンで1,000億ドルムーンショットを掲げた当時、最初の「10億ドル」というハードルを越えることが最大の難所であることは承知していました。重工業が産業AIを大規模展開し、実質的な財務リターンを生み出す準備が整っていることを証明しなければならなかったからです。
産業施設が1つ増えるたび、コンテキスト化されるデータソースが1つ増えるたび、そしてAIを活用した業務プロセスが現場に導入されるたびに、その価値は複利的に増大し、次の100億ドル、500億ドル、そして最終目標である1,000億ドルへの歩みを加速させます。
10億ドルの突破は、Cogniteのみならず、テクノロジー業界全体に対するPoC(概念実証)の完了を意味します。顧客の実現価値に焦点を当てることこそが、エンタープライズソフトウェアが進むべき確かな道であると証明されたのです。もっとも、これは私たちの最終目標のわずか1%にすぎません。1,000億ドルの達成にどれほどの確信があるかといえば、すでに旅路を共に歩み始めているお客様との熱量と信頼関係を鑑みれば、現場には検証されるのを待っている数兆円規模の価値がまだ無数に眠っていると確信しています。
感謝を込めて
このマイルストーンは、お客様、パートナー企業、そしてCogniteチーム全員のものです。
- お客様へ: 当社を信頼し、重要設備のオペレーションを託してくださったプラントマネージャー、信頼性エンジニア、現場オペレーター、そして経営陣の皆様に深く感謝申し上げます。
- Cogniteのメンバーへ: 妥協なきイノベーション、オーナーシップ、高い実行力、そして何よりも「顧客の成果」にこだわり続けてくれたことに心から感謝します。
次の990億ドルに向けて。
―― ギリッシュ&ジャスティン


