
トクヤマは、当時輸入品に依存していたソーダ灰の国産化を目指し、1918年に山口県徳山町(現在の周南市)で設立された。 化学品やセメントといった伝統的な基礎素材に加え、現在では半導体用多結晶シリコンなどの電子先端材料、メガネレンズ材料や歯科器材などのライフサイエンス、さらには環境分野へと事業フィールドを広げている。国内製造拠点は徳山製造所と鹿島工場の2箇所あり、製品の約8割はマザー工場である徳山製造所が担う。同社は2020年、外部環境の変化に対応し企業価値を向上させるため、全社プロジェクト「トクヤマDX(TDX)」を立ち上げた。TDXにおいては徳山製造所のオペレーション強化を主眼に置き、2030年度までに「プラントの夜間操業無人化(保安四法上の最低人員での運転)」および「突発停止ゼロ」の実現を目指している。
労働人口の減少やカーボンニュートラル、グローバル化への対応が迫られる中、TDXではデータ駆動型業務への変革を掲げ、トップダウンとボトムアップの両輪で施策を推進する。「労働人口が減少しても、従来通りの安定操業の維持を前提に事業が生き残り、更に発展していけるか」──その問いに対し、技術伝承を含む業務のデジタル化と効率化が不可欠であることは明らかである。
今回は、TDXの中核を担い、最小業務負荷での安定操業と保全業務の効率化をリードする、設備管理グループ設備診断チーム主幹の森 圭史氏にお話を伺った。
データのサイロ化が、DXの障壁に
デジタル化による業務効率化を進めるには、まず「データ統合」に取り組む必要があった。 徳山製造所には9つの製造部門が存在するが、それぞれの部門で異なるシステムを使用しており、データも個別に管理されていた。また、個人の経験に基づくノウハウや人手に依存した業務遂行も多く、運転・保全情報が散在していたり、紙の情報も存在していたりする。予兆保全やAI活用などデータに基づく迅速な意思決定を行うためには、情報のデジタル化を進め、部門ごとに分散(サイロ化)した各種データを統合基盤へ集約することが急務となっていた。
CDF導入の決め手は「スピード」「連携性」「AI活用」の3点
データ統合基盤として有効なプラットフォームを模索する中で出会ったのが、Cognite Data Fusion(以下、CDF)である。多岐にわたる製造・保全データの統合に時間がかかってはプロジェクト全体の遅延につながってしまう。データ統合プラットフォームの選定に際して、特に重要視したのが以下の3点である。
- スピーディーなデータ統合(データサイロの解消)
図面、P&ID(配管計装図)、操業データ、点検・保全記録など、あらゆるデータを統合・構造化し、現場が即座にアクセスできる環境構築はDXの第一歩である。Cognite独自の「コンテキスト化」技術により、人手を介さず短期間でデータ統合が可能である点は、膨大なデータを保有する同社にとって決定的な要素となった。 - 既存システムとの高い連携性
CDFはAPIやSDKを通じて既存システムと柔軟に連携できるため、現行システムへの改修負荷が極めて少ない。導入にかかる労力と時間を大幅に短縮できる点も大きなメリットであった。 - 自社データに根付いたAIエージェントの活用
Cogniteの産業向けAI「Atlas AI」を活用することで、統合されたOT・IT・エンジニアリングデータを基に、トクヤマの設備・業務を熟知したAIエージェントを構築できる。これによりデータ探索の手間を削減し、操業の質的向上を実現する。
Cogniteのこれらのメリットを総合的に判断し、2025年3月にCDF導入を決定した。
CDF導入プロセスと今後の展望
成果を確実に積み上げるため、トクヤマのCDF導入プロジェクトは大きく2つのフェーズで進行することとした。 フェーズ1では「化成品第一製造部」と「セメント製造部」の2製造部を対象に、操業における時系列データ、設備情報や保全履歴を含むCMMS、P&ID・フローシート、SharePoint上にあるドキュメント、点群・パノラマの3Dデータを連携した。続くフェーズ2では、残りの7製造部へ展開するとともに、動機器診断報告システムのデータ連携も追加。データのサイロ化を解消し、全社的な業務変革の基盤を固めている。現状の運転・保全業務は、依然として人の経験やノウハウに依存する部分が多い。しかし、CDF導入により設備とデータが自動的に紐づくことで、情報の信頼性が向上し、データに基づいた客観的な意思決定が可能となる。
また、Cogniteの現場アプリケーション「InField」を用いた点検業務のデジタル化も始まっている。 InFieldでは、モバイル端末上のチェックリストを用いて日常点検を実行でき、写真・動画のアップロードや、リアルタイムでの進捗確認も可能だ。こうしたデジタル化により、点検のチェック漏れを防ぐとともに、日々のデータを蓄積することで、設備トラブル時の迅速な原因特定につなげる狙いがある。 加えて、現場にいながら対象設備に紐づく時系列データ、作業手順書、3Dモデルなどをモバイル端末から即座に参照できるため、調査業務の効率も大幅に向上する。

さらに、「Atlas AI」との対話型コミュニケーションにより、ITリテラシーの有無に関わらず、誰もが必要な情報を瞬時に取得できる環境の構築も検証中だ。

トクヤマは、CDF導入によって年間2億円の業務効率化効果を見込んでいる。2026年3月までに徳山製造所の全9製造部における導入を完了させ、人と設備が調和してパフォーマンスを最大に発揮できるモノづくり現場に進化させる方針だ。
