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現場ニーズを迅速に形にする、JNCの製造DXの取り組み

現場ニーズを迅速に形にする、JNCの製造DXの取り組み

    左: DX推進室 兼 生産技術部 松浦 太紀氏 / 右: 水俣製造所 生産技術部 主務 松崎 元寿氏
    左: DX推進室 兼 生産技術部 松浦 太紀氏 / 右: 水俣製造所 生産技術部 主務 松崎 元寿氏

    JNC株式会社は、1906年の創業以来、120年の歴史を持つ総合化学メーカーとして、「高機能材料」、「グリーンエネルギー・エンジニアリング」、「アグリ・ライフイノベーション」、「ケミカルマテリアル」の4つのセグメントを軸に、国内外で事業を展開している。

    水俣製造所では自社で運営している水力発電所で発電した電力によるモノづくりを行うとともに、余剰電力は水俣市内に供給するなど、化学素材の提供にとどまらず、幅広い領域でサステナブルな社会の実現に向けて取り組んでいることが、JNCの特長である。

    CDF導入前の課題

    JNCとして、DXを推進する中で直面していた大きな課題の一つが、製造現場におけるデータのサイロ化であった。図面データ、センサーから取得される時系列データ、品質管理データ、設備保全記録など、膨大な情報が存在する一方で、それらは個別のシステムやExcelファイルとして分散管理されていた。

    その結果、データを用いた分析やシミュレーションを行う際には、各システムから必要なデータを都度ダウンロードし、Excel上で加工・集計を行う運用が常態化していた。同様のデータ収集や前処理、分析が部門や担当者ごとに繰り返されることで、業務の非効率化や属人化を招き、迅速な状況把握や意思決定の妨げとなっていた。

    このように、データを活用した取り組みを進めたくても、その前段となる準備作業に多くの時間と労力を要しており、データを横断的に扱い、共通の前提で分析・議論できる基盤の整備が急務となっていた。

    検討開始から意思決定までの背景

    こうした課題に対し、JNCが数あるソリューションの中から Cognite社が提供するCognite Data Fusion(CDF) を採用した理由は、産業データのコンテキスト化(データの自動的な紐付け)に強みを持つ点にあった。CDFは、IT・OT・エンジニアリングデータといった産業特有の複雑なデータを一次ソースシステムから取り込み、設備タグや時系列データ、P&ID、図面などを自動的に関連付け・統合できる。

    これにより、「どのデータが、どの設備や事象と結びついているのか」を直感的に把握できる環境を構築できる点を有効だと判断した。JNCが目指していたのは、単なるデータの可視化にとどまらず、現場の技術者が即座に分析を開始できる、信頼性の高いデータ基盤の整備であり、CDFはその要件を満たすと判断した。

    また、CDFが備えるAPI (Application Programming Interface)のオープン性も重要な判断材料となった。ExcelやPythonといった既存ツールに加え、生成AIとの連携を見据えた拡張性を備えている点を評価した。こうした柔軟性と拡張性を備えた点が、JNCのDXを中長期的に支える基盤としてCDFを採用する決め手となった。

    スモールスタートによる導入と活用の広がり

    CDF導入決定後は段階的な導入を前提に、Cognite社とも連携しながらプロジェクトを開始した。スモールスタートを意識し、現場の業務課題に直結するユースケースを優先的に整理しながら、順次実装を進めている。

    代表的な取り組みの一つが、ExcelからCDFのデータを直接取得できる仕組みの構築である。ユーザーは、CDFのAPIを意識することなく、使い慣れたExcel上でデータ取得関数を入力するだけで時系列データを参照できるようになった。これにより、データ活用のハードルが大きく下がり、日常業務の中で自然にデータを扱える環境が整備された。

    また、水力発電部門では、発電状況をリアルタイムに可視化するダッシュボードをCDF上に構築した。従来は一定時間ごとに社内共有されていた発電状況を、より即時性の高い形で把握できるようになり、発電状況の確認や判断の迅速化につながっている。

    水力発電所の運転状況のリアルタイム可視化を実現
    水力発電所の運転状況のリアルタイム可視化を実現

    さらに、バッチプラントにおいては、バッチ実績データと時系列データをCDF上で統合し、特定ロットにおける品質と運転条件の関係を迅速に分析できるカスタムアプリを構築した。これにより、従来は多くの手作業を要していた分析プロセスが効率化され、現場での原因究明や改善検討をスムーズに進められるようになった。

    加えて、原価管理に関するダッシュボードの整備も進めている。CDF上で共通化されたデータを基に、予算比やコスト構成を可視化することで、関連部門が同じデータを参照しながら議論できる環境づくりが進んでいる。

    これらの取り組みを通じて、JNCではCDFを単なるデータ統合基盤にとどまらず、現場の意思決定や業務改善を支える実践的なプラットフォーム(データ活用基盤)として、構築・活用を進めている。

    PoCおよび継続利用を通じて見えてきたこと

    CDFの導入により、JNCではデータ分析における前準備の負荷が大きく軽減された。必要なデータへ迅速にアクセスできるようになったことで、現場の技術者はデータの前準備作業ではなく、事象の分析や考察により多くの時間を割けるようになっている。

    また、CDFのAPIと生成AIを組み合わせることで、現場ニーズに応じたアプリケーションの開発や改善をスピーディに進められる環境が整いつつある。例えば、図面の更新をトリガーに関係者へ通知する仕組みなど、現場に近いDX推進チーム主導による改善が進められている。

    こうした「アイデアを迅速に形にできる」実感は、組織全体のDXに対する意識やモチベーションの向上にもつながっている。

    今後の展望

    JNCにおけるDXの取り組みは、水俣製造所の一部設備を対象としたCDF導入PoCからスタートし、現在は有効性や適用可能性を検証するフェーズにある。今後は、検証結果を踏まえながら、対象設備や部門を拡張し、社内での水平展開を進めていく方針である。

    機能については、データの可視化や分析にとどまらず、AIを活用した自動化や最適化にも取り組んでいく。具体的には、構築したデータ活用基盤の上に機械学習モデルを実装し、品質予測や設備の故障予兆検知といった領域において、より高精度な判断や対応を可能にすることを目指している。また、現場から寄せられる改善要望や新たな活用アイデアを継続的に取り込みながら、Cognite社と連携し、データ活用基盤そのものの改善・高度化を進めていく予定である。

    JNCは、CDFを中核として整備してきたデータ活用基盤を、製造部門に限らず、事業部門や研究部門を含めた全社共通の判断基盤へと進化させ、共通の事実認識に基づく意思決定を可能にしていきたいと考えている。データの蓄積、コンテキスト化、そして生成AIとの融合を着実に進めることで、120年の歴史を持つJNCの製造現場を、より高度で持続可能な次世代型プラントへと進化させていく。

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